アーキプラス

2012.12.31

12.写真家 Ⅱ

コラムcolumn
写真 ALTO B 設計:谷内田章夫/ワークショップ(1997年竣工)
撮影:藤塚光政
 1997年にALTO Bという集合住宅をつくった。敷地は港区海岸にあり、1990年代は未だ倉庫街と工場街であった場所だ。オーナーはパンチングメタルの工場を経営していた。この地に適した有望な企画を考えた。海が見え、倉庫街のため法規的にボリュームがとりやすい地域であった。湾岸高速道路や飛行機、新幹線などの便もよいところでもある。天井の高い開放的な空間をつくり、その中で創作活動をし、アクティブな都市生活が営めるような住居を提案した。天井の高い10m×5.5m=約33畳あるフリースペースを中心とした20戸の集合住宅である。1住戸の広さは100㎡あるが、その約半分は階高が2階分あり、天井の高さは約5m~5.25mあるフリースペースとした。それに2室と設備が加わった住まいを併設した。ここで考えたライフスタイルは例えば写真家がスタジオとして使いながら生活するといったイメージであった。資金計画、コスト調整、近接する首都高速道路との調整など幾多の難関を乗り越え、数年がかりで完成した。予測を超える反響があった。不動産募集や建築専門、一般誌いろいろな雑誌に掲載された。入居者はデザイン関係の方が多かった。やはり空間的な魅力を評価していただいて入居されたようである。しかし実際には写真家は入居しなかった。
 しかし、その代わりに写真家がスタジオをつくりたいという依頼があった。清水尚さんという写真家である。未だお若く当時30代前半であったように記憶している。奥様はスタイリストで建設途中に御嬢さんを出産された。海外でのファッション関係のフォトグラファーとしての活動から、自前のスタジオを持ち、スタジオに住む暮らしを望まれた。66坪の借地に地下に倉庫と暗室、1階は幅7m奥行き13m高さ5mスタジオだが2階を一部ハングさせた空間で3階が住居である。鉄骨造でシンプルな箱を用意した。生活の場と仕事が一体化した住まいである。スタジオは貸しスタジオとして使うようにもなり、現在では住宅部分はオフィスとして拡張し、住まいは別にされているそうだ。都市の様相の変化を読み、インターナショナルなレベルで活動している写真家である。
 ALTO Bの評判は上々で、このような所に住みたい、もっと他にないだろうかというリクエストが多かった。そこで企画を協力してもらった不動産会社の社長と近所の倉庫街に営業に出かけた。そのうち同じような敷地を持つ倉庫会社に集合住宅として建て替える提案を示し、2年後の1999年にCUBEという集合住宅を完成させた。今度は大きな吹き抜けのあるメゾネットとなった。15戸すべてが海に面した住戸である。このCUBEでは4人の写真家がスタジオや住居として使っていた。同業者同士なので機材の貸し借りをしたり、眺望の良い屋上の芝生の広場でビア・パーティを開いたりして、交流をし、集合住宅内のコミュニティが生まれたと聞いている。
 取材がらみでそのうちの一人のZIGENさんという有名なファッションフォトグラファーと知合いになった。ZIGENさんはファッションを中心に、パリ、そして日本で活躍してきた写真家だ。その仕事場をこちらのクライアントに見学させてもらうようにお願いすると快く応じてくれた。以降何件もの見学を受け入れていただき空間を体感してもらうということができた。写真で見るよりは空間は体験する方がわかりやすい。こちらのプレゼンテーションの強い味方ができた。そのZIGENさんも暮らし方の変化から、転居することになり、その際丁寧な挨拶文をいただいた。
 ZIGENさんも清水尚さんも私より若い世代であるが、共に独自の視点を持つ創造的な写真家だ。ライフスタイルとしても先見性があり、先を見る視座の据わったアーティストであった。
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