アーキプラス

2022.04.14

98.苗場プリヴェ

 クローズドになっていた旧称苗場プリヴェ※(ヤチダヨリ#86「高原の夏」参照)で宿泊ができるようになったという噂を聞いて、早速様子をネットで調べてみた。苗場プリヴェとは、以前設計した1988年に完成したリゾート賃貸集合住宅である。オーナーが変わり、サンダンスリゾート苗場という会員制のリゾートホテルのコンドミニアムの一つとなった。しかしその会社が倒産・再生となり、小規模の施設(16室)なので事業効率の問題なのであろうか、一時閉鎖していた。そういった中でも以前からの会員のリクエストがあり、昨年リニューアルオープンしたそうだ。その際、一部を会員以外の枠を設け、旅行社を介在して宿泊できるようになったのである。1泊一人5000円(宿泊のみ)であった。内容を知っているだけに実にリーズナブルと感じた。事務所のメンバー5人で事務所の研修旅行とすることにした。
 この旧称苗場プリヴェは、大きな丸窓からゲレンデを見下ろせる吹き抜けのあるメゾネットが12室、全面ガラスのリビングに1寝室のフラットが4室ある賃貸集合住宅として建てられた。スキー場に面しており、リビングでは大きなピクチャーウィンドウのようなゲレンデ模様がヴィヴィッドに映り、夜はナイター照明を伴って,非日常を演出していた。また、スキーのオフシーズンでも斜面の緑が吹き抜けのあるリビングを支配し、同じく非日常を彩っていた。メゾネットで上下にバストイレ付きのツインベッドの寝室が2室あり、下階のリビングルームは吹抜けを介して上階のセカンドルームに繋がり、ソファベッドがおかれ最大8名まで宿泊可能であった。34年前の完成当時はバブル景気の中、スキーブーム真只中であった。しかし当時、リゾートといえば、ツインルームや大きな和室と縁側の組合せが定番であった。グループで楽しく集える空間はほとんどなかった。今なら広々したスイートルームも多く現れているが、このぐらいの人数が集まれる施設は意外と少なかった。しかも、集う空間がダイナミックで、他に類例を見ないと自画自賛していた。内装は34年も経ったので、客室は模様替えとなっていた。壁紙、カーペット、家具、カーテン地、キッチンセットなどすべて当初のものとは変更になり、だいぶテイストは異なっていた。しかし、開口部、階段など空間を構成するエレメントは依然と全く変わらないためか、雰囲気はそのままであった。パブリックの空間も打ち放しのコンクリートを多用したためか、これもほとんど竣工時のままの姿を保っていた。34年も経ったという感じは全くなかった。
 以前はフレンチレストランを併設していたのだが、現在は厨房を朝食用のみとなり、ダイニングの一部はオープンの共用調理場となっていた。夕食はここを使わず、部屋でオードブルと鍋のケータリングを利用した。以前はオーナーに気を使い、フレンチディナーにワインをオーダーしていた。しかし、当時の事務所のスタッフ連中は、鍋を持ち込み大人数で宴会を堪能していたことを思い出した。これがいいのだ。
 途中でサンダンスリゾート苗場の方に聞いてみた。普段は3人で冬場はもう一人加わって管理しているそうだ。いずれも車で通えるところに住んでいるということであった。よりコンパクトな管理体制で長続きしてほしいと思った。おおいに盛り上がっていた巨大スキー場も現在はスキー人口が減少し、苗場スキー場も規模を縮小して営業しているようだ。ただ、冬季雪深いところが、大都市圏の近くにあるという立地である。日本の環境にあったリゾート・スポーツとして見直される時が来るかもしれない。その時までずうっと存続して、スキー・温泉・自然ウォッチングなど多様に楽しめる施設になってほしい。平日であったので、おそらく会員の家族であろう学生のような感じの若い人たちだけの集団を多く見かけた。若い人に愛されるといいなと思った。また何回も来ようと思った。
 
 ※北山恒・木下道郎と共同設計
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