アーキプラス

2013.04.30

16.円筒(シリンダー)状空間

コラムcolumn
写真 駿河台の集合住宅 ilusa 
   8.35mの直径、高さ26mのコンクリート打放しのシリンダー
   ブリッジのある1階からバブルスパイラルの階段で商業施設のある地下へ行く。
   2階より上は集合住宅の円形通路となっている。
   写真は広角レンズで撮っているため実際はもっと広く感じられる。
   撮影 齋部 功
 今までに多くの円筒状の空間を作ってきた。ほとんどは円筒の中を外部化し、通路や円形の階段またはダブルスパイラル状の階段としている。通路の場合は、シリンダーに住戸のエントランスの開口部(共用の場合もある)を開け、周回できるコンパクトな動線となる。階段の場合は1周、ダブルスパイラルの場合は半周で一層上下する。長さにゆとりがあるため、勾配がゆるいので登りやすい階段となる。
 天空からの光を降ろす光の井戸であり、新鮮な外気を送り込む空間である。ヴォリュームのある空間にシリンダーを挿入し、ネガのヴォイドをつくり、縦の空間を繋げるといった手法である。シリンダーの外面はそのままの形が内部空間に出てくる。円形のコアは水平耐力を持ち、耐震壁としても有効に効く。
 最初に試みたのは20数年前のこと。22戸のワンルームで4階建ての小さな集合住宅であった。法規的に採光が取れない北側の住戸に対して、建物の中央に円形の中庭を取り、Cの字型に通路をめぐらした。通路に囲まれるガラスブロックの部屋とした。通路に囲まれているが意外と明るくよい部屋になった。半径は4.4mだけどその面積(約15㎡≒4.5坪)よりもだいぶ広く見える。1階は街の広場のような雰囲気である。それが11mの高さに積み上がり、壮大な構築物に見える。
 次は40mの高層集合住宅に取り入れた。直径7.4m高さ40mの巨大構築物となった。ここにはスチールのグレーチングでできた段板を1枚ずつずらして重ねて、ダブルスパイラルを構成した。半周で1層上がるため、出入り口は奇数階、遇数階が交互になる。グレーチングは透過性がある材料なので光が円筒の中を降ってくる。40mの長さを潜り抜けてもローマのパンテオン(128年)における天窓のように巨大な吹き抜けの玄関ホールに光が降り注がれた。
 以降、いろいろな場面でこの手法を用いた。しかし意外とこのような空間を取り入れた建築はあまり見かけない。円形のプランではF.L.ライトのグッゲンハイム美術館(ニューヨーク1959年)があるが、円形がベースにあるが、シリンダー状ではない。カタツムリの殻か?またシリンダーではメーリニコフの自邸(モスクワ 1929年)があるが、2つのシリンダーを重ねたところから、形の純粋性は薄れる。その意味では、ルイス・I・カーン、ケビンローチ、丹下健三のコアが思い浮かべられる。また伊東豊雄せんだいメディアテーク(2000年)のコアのように一見不定形に見せる、空間的には両義性のある可視性のコアに何か新しい建築の可能性があるように感じられかも知れない。西沢立衛の軽井沢千住博美術館(2011年)のような透明なシリンダーに注目が集まるように、存在感のあるシリンダーで内外を機能化させるのは、あまりはやっていないようだ。
 そういえば、強力なシリンダー空間があった。G.アスプルンドのストックホルム市立図書館(1928年)である。1981年にストックホルムに訪れた時、メンテナンス中で入館できなかった。久々に北欧に行きたくなってきた。
円筒(シリンダー)状空間 作品年表
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