アーキプラス

2013.08.31

20.自然案内人

コラムcolumn
くじゅう連山扇が鼻    阿蘇中岳火口
奥天降川エコツアー    奥天降川昼食
 昨年夏の屋久島のエコツアーがすばらしかったため、今年もまた九州で自然に浸ろうということになった。お盆休みにくじゅう高原に4泊、霧島高原に2泊した。初日は星空観察会に参加、おりしもペルセウス座流星群の最大出現時期とも重なった。標高が高く、空気が澄み、湿度が低く、明かりが無いという星空観察の三大好条件を満たしているため九州でも有数のスター・ウオッチングエリアらしい。中山恭一さんというネイチャーガイドの方に天体望遠鏡持参で解説していただいた。何十億光年からの光と宇宙の成り立ちを語ってもらった。
 翌日、彼にくじゅう登山を案内してもらった。山の成り立ち、植生をレクチャーしてもらいながら山道を登る。しばし立ち止まり、草花の詳細についてルーペを使いながら解説してもらう。標高1698mの扇が鼻にあるお花畑のような草原が到達地であった。我々の構成を見ながら、彼が考えたお勧めスポットであった。最高峰の中岳よりは100mほど低いが、植物が豊富で眺めがよく、限られた時間でもくじゅうを堪能できた。彼はシタールの演奏家でもあるそうだ。インド音楽家のラヴィ・シャンカールの演奏を聴いて感動し、シタール奏者になった。もともとはプラントの鉄骨工事業をしていたが、需要が低迷していた。一生は限られているから、一念発起し、好きなことを続けようと家業をやめ、演奏家の傍ら、ネイチャーガイドをして大好きなくじゅうの魅力を発信している。大学では哲学を勉強されたそうだ。大分弁なまりで難解な言語はつかわない。彼の生き方そのものが哲学のようである。
 次に阿蘇ジオパーク協会の紹介で高嶋信雄さんに阿蘇のガイドをしてもらった。阿蘇ジオパークはユネスコが支援する「世界ジオパークネットワーク」への加盟認定に向けて現在活動中とのこと。高嶋さんは福井出身で東京の会社でプラント建設に従事し、リタイア。自然に囲まれながら、住みやすい場所を模索中に阿蘇に出会い、夫婦そろって阿蘇に住むことになったそうである。専門家ではないが、手作りで用意したカラフルなテキストで世界随一のカルデラの形成過程や文化的な歴史などを戸外のテーブルでたっぷりと説明してもらう。聴く人目線に立ち、ゆっくりと説明してもらった。とてもわかりやすかった。以前ベネッセアートサイト直島で売店やレストランで働くスタッフが展示されているアートを説明してくれた。専門家ではない人が語るほうが、わかりやすいことが多い。
 最終日は旅館のある妙見に流れている天降川(あもりがわ)の上流を自然案内人NPO奥天降川霧島代表の興松久夫さんに案内してもらうツアーである。有名な場所ではないが、手つかずの自然をありのままで体験してもらうというコンセプトである。湧き水、定住する魚、陽のあたる水の中で光合成し花を咲かせるカワゴケソウなど長靴を履いて探索する。他に観光客はいない。興松さんがひとりで切り開いた独自のコースを季節や状況に応じてアレンジして作るオリジナルコースである。昼食は川辺にセットされていた。相方の新町さんが朝釣った鮎20数匹が用意されている。孟宗竹を切り、コップを作り、縦に裂き串を作る。竹の串を鮎の口から差し込む。枯れた杉の枝を着火剤にして火を熾す。自然の中のダイニング空間である。クーラーボックスに冷たいお茶が用意されていた。ここで冷たいビールだったらと思ったが、この至福な時に際してバチが当たるかもしれない。
 いずれもNPO的な活動で自然を愛し、自然を多くの人に紹介したいという動機から始めておられるので少人数で参加しても非常にリーズナブルというより安い料金で内容の濃い旅にすることができた。逆に私なら何ができるか考えてみた。建築に絡む穴場スポット、ランニングとお風呂のお勧めコース、お花見都心の穴場など3歳から住み続けた東京の生態案内といったところか。どれも料金はいただけそうにない。
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