アーキプラス

2014.04.30

28.内と外の緩やかなつながり

コラムcolumn
写真:ATRIAの中庭  撮影 齋部 功
 1950年代の半ば、父の勤めていた会社の新築の社宅アパートに引っ越した。ペンキやガラスのパテの匂いや工事現場の名残に幼いながらも躍動感を憶えた。補強ブロック造の2階建てテラスハウスである。庭付きのメゾネットである。とはいうものの1戸1,2階合計14坪で6戸合わさったマッチ箱のような長屋であった。4棟並んでいた。壁、床の遮音性はすこぶる悪かった。隣の家の音がよく聞こえた。サッシも木製で3ミリのガラスであるため、伊勢湾台風とか第二室戸台風など巨大台風のときには建具が外から見えるほどしなり怖かった。夏は当時クーラーなど家庭にはまったくなかったため、開け放しの生活である。向かい合う家同士も聞きたくなくても声が聞こえてきた。社宅だけあって、さすがに夫婦喧嘩などの声は聞こえてこなかったが、兄弟喧嘩、親父のカミナリなど一家での騒動はまる聞こえであった。お互いの家族関係はどの家も了解していた。ただ、おかずのおすそ分け、調味料の貸し借り、外出時の子預かりなど頻繁に行われた。鍵などは不要であった。18歳までいたが、その後すぐに解体され、売却され分譲マンションになってしまった。短いサイクルであった。
 1995年中野区にSQUARESという低層集合住宅を設計した。正方形の中庭を中心とし、4棟が向かい合った構成である。4つの階段でつなげ、踊り場として広く取った通路にテーブルを置き、住戸の近くでの屋外共用空間とした。屋上庭園も居住者なら誰でも行くことができ、屋外を活用した。居住者同士が顔を合わすことが多くなるようにした。低層であればこそできる仕組みを考えた。
 この春、練馬区西大泉に23戸の低層集合住宅ができた。名前はATRIA、英語のアトリウム(中庭)の複数形である。周辺には畑も残るというのどかさもありながら、有楽町線、副都心線、の乗り入れや大江戸線の接続などで都心にも30分~40分以内で行けるという利便性も高い住宅地だ。敷地は畑であった。施主は古くから農業を営んでいた地主さんである。周辺の土地は相続のたびに土地は細分化されてゆく。おそらく10年か20年たてば周りは、住宅が密集してくると思われる。
 6棟建っているが、4つの階段を中心に、4つの部分集合に分かれる。それらは上下に分かれ、1階に3戸、2階に3戸の住戸がある。それぞれ共用のテラスがあり、中庭に向かい合っている。中庭は通路をかねた、ホールのような空間だ。SQUARESの中庭の下は駐車場であったので木は植えられなかった。ここでは桜を植えた。藤棚もつくった。どの家からも、テラスからもお花見ができるように。春はお花見、夏は木陰、秋は紅葉、冬は陽だまりをつくる。共用のテラスからセミプライベートなテラスにつながる。そして住戸の土間テラスに入る。ここは玄関であるとともにキッチンである。居室とは12㎝の段差があり、調理台の高さ85㎝は居室からは72㎝のテーブルの高さとなり、飲食店のような雰囲気となる。また、セミプライベートなテラスは屋外食事空間となる。1階が30㎡台の1.5層のワンルーム+ロフト。専用テラスがついている。2階は上りやすいロフトつきのメゾネット。40㎡台の1LDK。ともに仕切られることなく連続した空間となっている。共用テラス、セミプライベートのテラスを介して、内部での居住空間が、3戸の共用空間につながり上下で6戸の集合となり、全体の中庭につながる構成である。生活行為が中から滲み出して、近くの他と結びつき、併合され、全体につながる。鍵となるのは内と外の緩やかなつながりである。どのような場が生まれるか楽しみである。
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