アーキプラス

2014.11.30

35.ダーティ・ループス

コラムcolumn
「ヒット・ミー」ジャパン・ツアー2014 11月26日豊洲PITにて
(「ヒット・ミー」はダーティ・ループス1番のヒット曲)
右からドラムスのアーロン、ベースのヘンリック、ヴォーカルのジョナ、サポートメンバー
 事務所で仕事をする時、静まり返った雰囲気よりも多少音楽があったほうがよいと思い、音楽番組が豊富なインターFMを流すことが多かった。そのおかげで新しい音楽を聴く機会が多くなった。そのうちで「こりゃすごい」と感じたのは、ダーティ・ループスというスウェーデンの3人組バンドである。目下一番のお気に入りだ。ヴォーカルとキーボード、6弦ベース、ドラムスの組み合わせだが、それぞれが驚愕のパフォーマンスで見事に絡み合っている。洋楽では今年日本で一番売れている新人だそうで、今、世界中でセンセーションを起こしている。CDでプロモーションを行って売り出すのではなく、実験的な音楽を創造し、YOU TUBEで評判を取り、売り出すという新しいスタイルである。
 そのダーティ・ループスが来日するという。(日本が好きだそうで、今年はこれで実に6回目の訪問だそうだ)ライブで聴き、演奏模様を観たくなった。ネットでチケットを購入した。大学の授業を終えてから、一人で豊洲ピットというホールに行った。以前フットサル大会をした会場の隣である。約3000人収容スタンディングのイベントスペースである。いつも行くコンサートよりはさすがに年齢層は低い。しかし、時おり年配もいる、でも私よりは若いだろうな、などと観察する。意外と一人できている人も多い。キャパシティ約3000人の会場は、コンパクトでシンプル。座席指定はないので前に行く。ドラムのアーロンがいい奴そうのなのと撥さばきを間近で見たかったので、彼のすぐ脇に行ってみる。ステージとは5,6mぐらいのところである。ドーム・コンサートとは大違いである。異例の延長アンコールを含めて1時間20分ほどのパフォーマンスであったが、あっという間の時間で、スタンディングであるのを忘れてしまうぐらいの爽快感であった。うますぎると感じられたレコーディングより、ライブのほうがさらに迫力があり、時間当たりの音数は大変なものだ。気のよさそうな普通のスウェーデンの若者だが、只者ではない。50年たって、ビートルズ、ストーンズ、ツェッペリンなどのように残る音楽になるだろうか?これからが楽しみだ。事務所では、調子に乗って、ボリュームを上げて聞いていたら、スタッフから苦情がでた。気が散ってしまう。そりゃそうだ。これからは、今までは好きになれなかったイヤホーンを耳にして聞くことにしよう。
 その前に東京建築士会主催「住宅課題賞」の公開審査会に審査に行った。これは首都圏の建築系大学36大学45学科の優秀作品を集め、その中から優秀作品を選出し、顕彰する会である。14回目だそうで、審査委員長は建築ジャーナリズム界の重鎮である植田実さん。その他の審査員は、4名で他の三人は私よりも20歳前後年下の建築家達で、二人は女性であった。一人何か距離感のある立場であった。45作品を巡回して、それぞれ説明を受け、7点を投票する。各作品のコメントを分担して発表し、推薦作品をコメントする。次に3点を選び、選定理由・基準を述べる。優秀賞の絞込みの討議をする。各審査員の賞、講評を述べる。集合から交流会を含めると10時間近くの長丁場であった。あっという間に時間が過ぎた。しかし、心地よい疲労が残った。われわれの学生時代の建築は、何か大上段に構えていた提案が多かったが、中身は動線や建築計画においても基本に忠実なものが多かった。それと比べて、選択肢が広がり、多様性があり、自由度の高い複合的な作品が多かった。自分の学生時代に何をやったかを思い出すと相当に進化しており、審査をするのも冷や汗ものである。建築と音楽を比べるのも少々乱暴だが、彼らの中にダーティ・ループスのような新しいヒーローが生まれ、一方で未だに閉塞感が残る身近な環境の中に新しい建築が生まれることを切に願っている。
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