アーキプラス

2012.02.28

2.都市を走る、体で知る

コラムcolumn
 中国が開放都市を制定し、自由個人旅行が出来ることを知り、1986年に単身で深セン、広州、桂林、昆明、北京、上海、西安、成都、拉薩(ラサ)を廻った。(今思うと列車や飛行機のチケットが事前に予約できない中、その都度割り込みが多い長蛇の列を並びながら、1ヶ月でよくここまで廻ったと思う・・・・・。) 当時はみな人民服を着ていて、車はポンコツ、バイクもあまりなかった。移動するのに使うのは自転車。ホテルの従業員に聞いてみたら、日本なら電車で行く距離を皆それぞれ自転車で通っていた。自転車集団は広い道路を蟻の大群の移動のごとく都市の中を蠢いていた。自転車の燃料は食料であり、人々はみなスリムだった。
 2002年に友人たちとシシリー島に行ったとき、朝昼晩とグルメ三昧の日々、数年前から始めたジム通いでしぼり始めた体がリバウンドするのが気になり、早朝散歩をした。そのうちより負荷がかかるほうがよいと思い、坂を登っていったら、州都パレルモ市内を一望できる丘に偶然たどり着いた。朝食前約1時間、息を切らしてのぼり、ギリシャ時代より航海者や商人達の交流の拠点となった古都を眺めおろした。心地よかった。朝食もさらに美味かった。同行者たちにその気持ちよさを自慢せずにはいられなかった。帰路ローマに泊まったときも朝食前にローマ市街を今度は、走ってみた。コロッセオ、フォロ・ロマーノ、パンテオンなど2000年前の都市の尊大な残像が次から次に現れてくるのに感動した。しかし、起き抜けで出かけたため、途中で催してしまった。早朝から開いている施設がなくあせったが、かろうじて開いていたバールのトイレに駆け込んだのを憶えている。
 以来国内外を問わず、リバウンド防止のため、旅行先には必ず、ランニングシューズを持ってゆく。ホテルのジムで済ますこともあるが、やはり外をかけるのが一番気持ちいい。シンガポールでもマリーナ地区で走った。こんな暑いところを走れるかなと思ったが、早朝の海からの風が気持ちよい。意外にもシンガポールでもランニングブームでたくさんの老若男女がランニングしていることに気づく。ランニングコースとなって最近出来たモシェ・サフディ設計のマリーナ・ベイ・サンズなどを周回する。都市の中をかけることは、都市の大きさや存在を体で感ずるのに一番手っ取り早く、手軽な方法であると思う。五感にダイレクトに響いてくる。
 去年「東京マラソン2011」を走った。初フルマラソンのトライだ。10年ぐらい前から少しずつランニングしていたけれど、フルマラソンはそのうちにと思いながら、思い切れずいた。それでも年に3回ぐらい10kmレースに参加などして準備はしていたんだけれど・・・・・。なんとか走り終えた。36,000人がかける都市のお祭りは思っていた以上に楽しかった。何より沿道からの声援に勇気付けられる。練習ではとても走り続けられないスピードでもなんとか我慢できる。中盤は先が見えずつらいけれど終盤になるとここまで来た自分が嬉しくなってくる。42.195kmは私鉄や地下鉄は1駅1kmぐらいの間隔だから42駅ぐらいを通ることになる東京マラソンでは数えてみたら地下鉄で50駅は通過していた。50駅あったら都市内でもかなりの範囲を廻ることが出来る。大都市のおおよそをつかんだ気分になれる。
 去年は川越(ハーフ)、奈良のマラソン大会に出場し、今年は東京マラソン2012、京都マラソン2012(今年が第1回目)に出場予定で歴史ある都市を体で感じたいと思っている。さらにその後は、パリ・ローマ・ニューヨーク・ヴェネツィア・ウィーンなど歴史ある都市の海外の大会に参加したいなと思う。パリマラソンは「凱旋門近くからスタートし、シャンゼリゼ大通りを走り、コンコルド広場からルーブル美術館、ノートルダム寺院を周回し、ヴァンセンヌの森、セーヌ河畔沿いからエッフェル塔、ブローニュの森を駆け抜けてフォッシュ大通り(凱旋門近く)でゴールする。」という。4、5時間の間で都市のつながりを体で実感できるそんなことを考えるだけでワクワクしてくる。マラソンはちゃんとした準備さえすれば、完走は誰にでもできるものだと思う。「走る建築家」はこのところ会うひとごとにフルマラソンを薦めている。
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