アーキプラス

2015.01.31

37.存在感ある国アイスランド

コラムcolumn
 正月休みにオーロラを見ようということでアイスランドに行った。アイスランドは緯度が高く、北極圏に近いが、暖流であるメキシコ湾流が流れ込む影響で、緯度の割合には温暖である。緯度はグリーンランドや北欧諸国の北部と同じぐらいだが、はるかに暖かい。1月の平均気温は、ニューヨークや札幌よりも高い。寒さのゆるい中でオーロラを見ることができる環境である。ただ、冬至直後の北極圏である。これはオーロラを見るには絶好だが、日の出は11時半、日の入りは3時である。ほとんどが夜になり、風景を楽しめるかが気がかりであった。
 ガイドは渡辺佐保さん。歌姫ビョークに興味を持ち、学生時代からアイスランドにあこがれ続け、アイスランド航空に勤め、10年ぐらい日本とアイスランドを行き来しているうちに最近こちらに定住したといっておられた。アイスランドやアイスランド人が大好きだけれど、ちょっと変なところもあるその国民性を楽しく客観的に語る喋り口は軽快で旅を一層面白くしてくれた。
 アイスランドの人口は32万人で日本の約400分の1である。国土は日本の1/3である。したがって人口密度は日本の100分の1以下である。首都レイキャビクの人口は約18万人でこのあたりにほとんど集中している。遠く離れた小国家であるが、日本と共通している部分は多い。まず火山と温泉のある島国である。アイスランドにはギャウと呼ばれる地球の割れ目があり、それはユーラシアプレートと北アメリカプレートに引っ張られることででき、アイスランドの中央を貫いている。日本ではプレートが海底から地球深部に潜り込む。真逆の関係だが、火山が多く、温泉が湧き出るということでは共通している。アイスランドの山間部では氷河地帯が多いため、電源の7割を水力発電、残りの3割が地熱発電で賄い、化石燃料や原子力は一切ない。地熱発電には日本の技術が大いにかかわっているそうだ。首都のレイキャビクでは、地熱発電所の温排水をパイプラインで各家庭に供給し、暖房や給湯はこれで賄われる。確かにホテルのシャワーは硫黄の匂いのする温泉水であった。それを利用して、いたるところに温水プールがある。自然を利用し、楽しんでいる。その結果、世界一空気のきれいな都市といわれる。今後、自動車も水素燃料電池を利用して二酸化炭素ゼロ化を進めようとしている。
 また、いろいろな海流が交わり、漁業が盛んだ。捕鯨国でもあり、とった鯨の多くを日本に輸出している。サケとタラ、ニシンなどは国内で消費されるが、もとは肉食系のバイキングであるため、その他はあまり消費されず、国外に輸出され、カレイ、ヒラメ、アカウオやシシャモなどは日本へ輸出される。金融破綻以降、実業である水産資源の活用が見直され70%以上が漁業関係の従事者であるといわれている。
 治安は非常によい。世界平和度指数ランキングでこの数年1位である。ちなみに2位はデンマーク、日本は8位、アメリカは101位、中国は108位である。また非武装国でもある。国土防衛は警察隊と沿岸警備隊が担う。NATOの加盟国であるが、世界でも希少な「軍隊を保有していない国家」である。1986年レーガン・ゴルバチョフ会談がレイキャビクで開かれ、物別れになったが、冷戦の終結のはじまりとなったところでもある。少し離れたところにある小国家の存在感を示している
 金融破綻の立ち直りは観光によるところが大きい。2015年は観光客70万人を見込んでおり、人口の2倍以上。日本は400倍だから、日本になぞると2億8000万人、ちなみに日本の2014年の観光客数は1341万人であった。20倍以上の経済効果がある。小国家ならではの効率よさである。ただ、施設の整備は細部にわたって行き届いていた。
 ところで、オーロラはどうであったかというと。めまぐるしく変わる天候の中、気まぐれに出没するオーロラに幸運にも出会えた。直上から降りかかってくるカーテン状のものはよほどのタイミングでないと見えないが、虹のようなポァーッとしたものは意外と街中でも見ることできた。深夜の人里離れたところでも最低でマイナス5度であったので楽に目的を遂げることができた。書ききれないほど面白いことがあったが、いつか白夜のアイスランドに行ってみたいと思っている。
Copyright(c) 谷内田章夫 無断転載不可