アーキプラス

2015.03.31

39.遊べるキッチン

コラムcolumn
自宅で23年間使っているオールステンレスのシステムキッチン
 しばらく前から、朝食をつくるようになった。土日祝祭日では、朝食以外もつくることが多い。男二人兄弟の次男坊であったので、子供の頃からよく母親の手伝いとして買い物から調理までさせられた。調理は知らないうちに憶えた。
 また生来、食い意地がはっており、つくること自体が楽しかった。たいしたものはできないが、今ではスマホでレシピを確認しながら、つくるのは楽しい作業であり、面倒とは感じない。ごはんを中心として汁物、おかず2,3品を用意するのが日課である。デザートはナチュラル・ヨーグルトが定番である。お世辞でもうまいといってくれれば、さらに調子に乗る。我が家は妻が医院を開業しているため、従業員の方のための賄い用の食材がそろっている。在庫を見ながら、何をつくるかを考えるのが、毎朝の楽しみである。
 我が家のキッチンはヤマハのオールステンレスのシステムキッチンである。間口2800㎜のコンパクトなI型キッチンユニットで、二十数年前家の新築のとき、義理の母親がショールームでみつけてきたものである。業務用の機器のように無駄を削ぎ落としたようなデザインが気に入った。調理台は850㎜の高さだが、ガス調理器は750㎜で、オーブン、電子レンジ、グリラー、大小3つ口のコンロ等、収納を含めて全てが機能的にまとめられている。ステンレスの厚さは2㎜。剛健で今でも古さを感じさせない。当時から話題になった製品だが、その頃にしてはデザインが斬新すぎたのと高価だったことから、1998年には生産が中止されてしまったそうである。水栓やそのフットスイッチ等の部品は取り替えているが、全体としての原型は全くかわらない。その高性能なキッチンは当初大人数のパーティのとき大活躍した。最近、パーティは事務所で行うので、宝の持ち腐れとなっているが(日常は賄いで大活躍)、日常を遊ぶことができる。
 12年前に軽井沢で別荘を設計した。浅間山を仰ぐ、雄大な吹抜け空間に面したキッチンとダイニングである。アイランド型のオールステンレスである。製作は辰巳工業という職人肌のメーカーにつくっていただいた。きめ細かい美しいバイブレーション仕上げで別荘の中心「へそ」になるキッチンとなった。階段も剥き出したオープンプランにアイランド型キッチンは似合った。非日常を楽しめる開放性は空間の遊びとなる。事務所のある集合住宅のキッチンも全部そのメーカーにつくってもらった。いろいろな事情で残念ながら廃業された。その後、オールステンレスのキッチンは脚光を浴びてくる。つくり込みをするとコストがどうしても高くなる。しかし、表面材を薄いステンレスとして、廉価版も出て、だいぶ普及してきた。しかし、オールステンレス風でも清々しい潔さがある。
 最近、賃貸集合住宅の中でもアイランド型のキッチンを取り入れている。キッチン部分の床を13㎝下げ、調理台の高さが85㎝であるため、床からは72㎝で椅子の高さに合う通常のダイニングテーブルの高さとした。調理する人と食べる人が向かい合う仕組みである。あたかも料理屋のカウンターでのやりとりを演じているかのようにした。実際にどう使われるかわからないが、部屋の中で食事に絡むゲームのような遊びの空間とした。
 行きつけの近く定食屋をのぞいた。4テーブルで調理人一人の小さな店だが、奥にひっそりとキッチンがある。家庭用のガスコンロが2つ、鋳鉄製ガスの五徳とフライヤーが一つ、小さなダブルシンクが一つ、猫の額ほどの調理台であった。3畳もない空間に凝縮している。マスターの手によって、そこから次から次へと唐揚げ、コロッケ、豚汁、サバの味噌煮など定食が手品のように登場してくる。オペレーションのし易さが第一で、超コンパクトに納められている。定食屋のプロに遊びはなかった。
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