アーキプラス

2015.08.31

44.スポーツハブとしてのスタジアム

コラムcolumn
 この夏休みにシンガポールに行ってきた。今回で3回目だが、7泊の長期滞在で今まで以上にこの国を知ることができた。冬に行ったアイスランドと比べると赤道直下と北極圏、人口密度の高低という関係で真逆の環境である。しかし共に暮らしが豊か(ひとりあたりのGDPは日本より高い)で安全性が高く、平均寿命が世界でトップクラスという共通点も多い。シンガポールは人口541万人、710km2の広さで、7,612.68人/km2の人口密度である。広さは、東京23区よりもやや広い。東京23区の人口は9,214,130人なので、半分の人口密度である。しかし実際は、建ち並んだ高層ビル群やHDBと呼ばれる国民の80%以上が住んでいる公共住宅(すべて分譲)の混み具合をみると東京よりはるかに人口密度は高そうである。
 元々、熱帯雨林を開拓してできた都市である。かつて統治していたイギリスからの影響があって、街作りは英国風で密度にメリハリがある。「集約と分散」の型で日本のように市街地が連担してつながっていない。かなりの部分は開発されているが、意外と熱帯雨林的な部分も残っており、とても大切にしている。住宅地と住宅地を結びつけるための自然歩道も用意されている。環境の整備のされ方は、コンパクトな国だけに徹底している。電柱に電線などの露出はない。ガーデンシティという国のコンセプトのもと、街路、公園、建築それぞれが緑化されている。熱帯雨林気候だから、成長も早い。枝の剪定等も頻繁に行われている。街での剪定作業をよく見かけた。水やエネルギー資源は隣国から調達する。資源が乏しく、自然に厳しい国だからこそ資源を有効に使おうとしている。建築も経済成長のめざましさからか、新しい斬新なものが、他の都市では考えられないほどスピーデイに生まれてきている。1999年(1回目)と2011年(2回目)と今回との間には12年と4年の隔たりがあるが、特に1999年からの変わり様は凄まじいものがある。同じ都市と思えないほどだ。中心のベイエリアは、堰をつくり塞ぎ、水資源確保のために淡水化を図っている。その周りに新しい建築が続々と登場している。特に、マリーナ・ベイ・サンズ付近は全く新しいランドマークとなった。その中にガーデンズ・バイ・ザ・ベイがある。木を模したお化けのような巨大人口樹スーパーツリーをつくり、空中で散策できるような建築である。夜は変化ある光でライトアップされ、街の名所となっている。しかし、造形的な表現であるだけではない。剪定された枝葉やゴミはバイオマス技術を用いて肥料や燃料として使われている。地下にある施設で燃やし、タービンを回し、空調機を稼働させ、隣のガラス屋根の植物園で熱帯の中でも絶えず23°から25°まで保つため空間に冷気を供給している。スーパーツリーは排気を浄化し、その煙突として機能している。ベイの淡水化等を含めた地域全体の環境装置となっている。
 いくつもの建築を見て回る中、2014年に完成したナショナルスタジアムに立ち寄った。これはシンガポール・スポーツ・ハブと呼ばれ、スタジアムを中心に各種体育館、プール、スポーツ・ミュージアム、スポーツ・ライブラリー、ショッピングモールがリンクした施設となっている。スタジアムを周回する通路は屋根つきの練習トラックとなり、各施設を障害なしにフラットにつなげている。シンガポールのスポーツの中心であるとともに、東南アジアのスポーツの中心となるシンガポール政府のストラテジーである。集約化させ、経済性を図りながら、つなげて相乗効果を狙った施設である。
 計画が練り直される日本の国立競技場もこのように、いろいろなスポーツ施設を関連付け、相互に行きやすいハブの機能を持つ建築となればいいと思った。国立競技場は単独のシンボルとならず、ライブラリーやミュージアムの機能を含めた中心施設となり、相互をつなげる機能を持つとよいと思う。もとより神宮外苑は、国立競技場のほかに秩父宮ラグビー場、テニス場、東京体育館と付属プール、神宮球場や練習グラウンド、ランニング周回コース、バッティングマシン、フットサル・コートなどスポーツ施設が満載だ。それらが連携するために道路をまたいで、または地下をくぐり、相互に行き来することは可能だと思う。オリンピック以後はみんなが楽しめる繋がった世界の都市に類がないスポーツパークとなってほしい。国立競技場にはそのポテンシャルが十分にあると思う。明治神宮、JSC、東京都が連携しながら計画できればよいのだが……。
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