アーキプラス

2016.06.30

54.ゲストハウス

コラムcolumn
写真:ゲストハウスMADO
 6月5日名古屋市緑区有松で開催された「有松絞祭り2016」に行ってきた。そちらに建築の計画があり、そのリサーチを兼ねていた。6月の第一土曜日、日曜日に毎年開催されるそうである。有松は「有松絞り」で有名な東海道の宿場町であった。尾張藩が奨励した有松絞りと共に発展した街で、名古屋市の「有松町並み保存地区」に指定され、ここ数年で街並み整備が本格化している。その祭りの様子を見ようと思ったが、土曜日は午後打ち合わせがあり、出発は夕方である。翌日内覧会もあり、少なくとも15時までには戻ってきたい。日曜日の11時ぐらいまでしか居られない。日帰りは不可能である。早く着くためには有松に泊まるしかないが、名古屋駅まで電車で30分の有松駅にはホテルはない。探してみると「ゲストハウスMADO」という民宿?があった。1泊3000円?何?それ。本当かな?電話で予約してみる。相部屋だが、たまたま1名空いているという。丁寧な対応であった。単に泊まるだけでいいのでお願いする。こういう体験もあっていいと思った。今年のゴールデンウィークに行った修善寺の名門旅館とは対極的な泊まり方である。
 夕方に名鉄本線に乗り、有松駅から街道沿いのゲストハウスに行く。早速オーナーに話を聞いてみると、彼は、以前上海でアパレル関係の事業をやっていたそうだ。異国の地にいながら、郷里の伝統的文化のある有松でこのようなビジネスをやってみたいと想い描き、感奮興起し、有松の町屋の物件を探し、1棟借りし、1年ちょっと前に開業したそうだ。当初、ゲストの7~8割が外国人であったが、最近は日本人も増え、外国人は5~6割だそうだ。ゲストブックにいろいろな人の写真が載っている。1泊3000円(食事別)。伝統的な街並みの中の民家に泊まり、料金はリーズナブルを飛び越えて格安。人気が出ないわけがない。トイレ洗面はもちろん共同、外に男女別にシャワーブースがあるだけである。つい、月の売り上げはなんて計算してしまうが、3部屋で相部屋も含め定員は10名である。こじんまりとしたカフェも併設してあった。当日は「有松絞祭り2016」であったため、満室であったが、タイミング良く申し込んで滑り込むことができた。グループ旅行の女性達と都立高校同期の旅行会の男女のグループで私だけが単独の宿泊者であった。夕食後、寄り道したワインバーのワインの酔いもまわり、相部屋の人達との会話もそこそこにして、一番で床に就いた。早朝、一番で起き散歩する。昨晩のお祭りの宴の余韻が残る中、神社や旧跡、敷地周辺を足早に回る。9時から有松絞祭りを見学した。
 30数年前、4か月ヨーロッパ建築一人旅をした時にはヨーロッパではこのようなゲストハウスに泊まっていた。大部屋でベッドが並んでいて、ときには男女同室であったりして、着替えの際には目のやり場に困ったこともあった。知り合いの家、夜行列車以外に貧乏旅行を支えるものはこのようなスタイルの宿泊所である。1985年の中国旅行の時にも大きなホテルにはバックパッカー用のドミトリーが用意されていて、情報交換をしたものである。私にとって馴染みがよい。2年前に金沢に行った時もあらかじめ調べ、東茶屋街で町屋宿した。これは単なる民泊であったが、環境を考えるとリーズナブルな料金であった。
 都心部のホテルでは需要が供給を大きく上回り、底なしに宿泊代が高くなっている状況に対して、逆にこのような宿泊も増えてきているという。これから円高ともなればさらに増えるかもしれない。そして、クライアントとも会い、お昼前に名古屋を発ち、新幹線で東京に戻った。前夜のワインバー、普段はワインショップで金曜土曜日だけの営業だそうだが、客同士の会話も自然とつながり、スマートでゆったりとした時間が流れている。スローな旅、スローな飲みはいいなと思った。ただ、今回の私の旅はスローとはほど遠い弾丸旅行であったが、でもとても楽しかった。
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