アーキプラス

2016.07.31

55.多目的ホール

コラムcolumn
写真:オマール・ソーサ、熊谷和徳、当日の出演者と共にアンコール
   観客全員スタンディング  ”プランクトンのホームページより”
 先日、友人に誘われて、ピアノとタップダンスというジャンルを超えた珍しい組み合わせのコンサートに行ってきた。ピアノはオマール・ソーサという1965年キューバ生まれ、バルセロナ在住の「鍵盤の魔術師」の異名を誇るピアニスト。様々な国籍のミュージシャンと組んでライフワークであるアフリカ音楽を追求する一方、アラブやインド音楽など、ジャズの枠を超えて多岐に渡る活動を続けているそうだ。タップダンスは熊谷和徳という1977年生まれの超絶の足技のタップダンサー。15歳からタップダンスを始め、19歳でニューヨークへ単身渡米。NYで認められ、ストリートからJAZZ CLUBまで独自の活動を広げ、ジャズからクラッシックまでいろいろなジャンルのミュージシャンと競演している。NYと日本を二大拠点とし、活動の場を世界中に広げている。
 一日の小さな音楽フェスティバルの「トリ」となる二人の共演であった。オマールの意外とメロディアスな(かといってスタイルが定まっていない抽象的な表現)演奏に合わせたタップである。音楽とダンスの組み合わせというより、最初の紹介でオマールがいったようにタップという打楽器による掛け合いのようなデュオである。鍵盤がつくりだす立体的な空間にタップのモノトーンの音が見事に埋まって行く。二人が出す別の音が共時的にシンフォニーになるという感じであった。インドネシアのガムランはより組織的で複雑な音だが、同じようなアンサンブルである。とても心地よく感じた。打楽器は大好きだ。しかし、これと正反対の同じ音を同時に鳴らす、和太鼓は苦手な音楽である。同じように同じ音で歌うユニゾンで同時に同じ踊りをするアイドル・グループの形式もそのような観点でみると冷めてしまう。立体的な展開があるものが好きだ。
 会場はめぐろパーシモンホール。都立大学移転の跡地にできた「めぐろ区民キャンパス」という地域に開かれた複合施設のなかにある多目的ホールである。東横線の都立大学駅より徒歩7分の住宅地の中にある。大きなガラス張りのホワイエからは「めぐろ区民キャンパス」全体が見渡せる。大手設計事務所設計の定員1200名で音響設備もゆきとどいたモダンで立派なホールである。いろいろなイヴェントが主として地域のために行われるが、設備が立派な割合に割安の料金?のためか、ユニークで文化的なイヴェントにも活用されている。
 今年の3月に行ったブエナヴィスタソシアルクラブのコンサートで行った武蔵野市民文化会館も同じような建ち位置のホールである。1984年に武蔵野市役所旧庁舎跡地につくられた1,354席の多目的ホールである。吉祥寺駅や三鷹駅からは遠いが、周辺は緑豊かで公共施設がちりばめられ、好環境である。西東京市の自宅から井の頭公園に行って戻ってくる私のジョギングコースの通過点にある馴染みの場所だ。以前、公共施設が競い合うように建てられ、いわゆる「箱物」と批判された施設であるが、このように高い文化性が保たれることに寄与でき、有用に活用されていればよいことかもしれない。しかし、改修工事のため、4月1日より全面休館となった。2017年4月20日リニューアルオープン予定だそうだ。しかしその費用は相当にかかり、一つの市役所が建てられるくらいの予算らしい。財政がひっ迫している自治体であれば、このような改修はやれないと思う。隣接する西東京市に居を構える身としては羨ましい限りである。武蔵野市など家賃や地価が高いところは財政が豊かで環境も整備されている。先立つものがあれば、暮らすにはこのあたりがいいのかな?
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