アーキプラス

2017.06.30

65.地下室の効用

コラムcolumn
写真:Court Modelia akasaka895 地下2階のLDK    © BAUHOUSNEO
 先日、大学時代からの親友がライブに出演するので久しぶりに国分寺のライブハウスに聴きに行った。彼のパートはブルース・ハープである。駅の近くにある地下の店であった。5m角ぐらいの大きさである。バンドは4人組で、お店の人ひとり、オーディエンスは17,8人といったこぢんまりとした空間であった。このぐらいのスペースでも地下であれば、特別な装置でなくても演奏が可能になるのかと思った。彼が以前出演していた高円寺のライブハウスももうすこし広かったが、同じような構成であった。そういえば、南青山の「ボディ・アンド・ソウル」もマンションの地下に構えている。地下には外界と分断された別世界が生まれる。
 30年ぐらい前、小学校からの友人の住宅を設計した。ジャズ演奏が楽しめるスタジオを持つのが彼の夢であった。周りを山林に囲まれた斜面の地下部分にスタジオをつくった。彼は顔が広く、人懐こいというか、図々しい性格で、一流ミュージシャンに声をかけ、日曜日の昼に来てもらって、会費を集め、自宅の地下室でジャズライブを行うことになった。30人ぐらい集めるとミュージシャンのギャラは払えた。アットホームで贅沢なパーティとなった。斜面に建つため、多くは土で覆われるが、地下といってもしっかりと窓があったため、閉塞感はなかった。地下室の効用である。
 1994年に建築基準法が改訂され、一定の基準が満たされれば、住宅の地下室は容積から除外されるという緩和措置が取られるようになった。集合住宅ではどんなことになるのか、1997年に竣工したTRINITE ROUGE、BLUE、JAUNE3棟とDUO1棟の4棟の集合住宅に取り入れてみた。いずれもドライエリア(からぼり)を充分に取っているため、採光、換気とも問題がなく、地下というイメージを払拭したものであった。20年たった今でも充分に稼働している。その中の一つは、住まい手のミュージシャンがグランド・ピアノを持ち込み練習スタジオで使っていた。1階と地下1階のスキップフロアのメゾネットで一番深い部分をスタジオとしていた。壁は30センチ以上のコンクリートでつくられており、隣家へも問題なかったようだ。以降100棟近い集合住宅の中で14棟に取り入れた。すべて、地表部分とつながりがあるメゾネットである。
 地下は、土を掘って作るため山止めや土の搬出などで躯体費用がかかる。また、防水処理や換気や排水なども加わり、一般的には建設費用は多くなる。ただ、外気を取り入れる開口部をつくり、防水が切れた時の排水や除湿装置などを施せば、居室として安心して充分に使える。以前、渋谷区神宮前に地上3階地下2階の集合住宅をつくった。人気の高い場所だけにより高度の空間利用を求められた。敷地に接する道路に高低差があり、建築に接する地盤面が道路より高かったため、地下1階と地下2階のメゾネットをつくった。天井の高い空間を取り入れたため、地上階にはない魅力的な空間となった。その実績があったため、今年の3月に完成した赤坂の集合住宅でも取り入れることとなった。敷地はコインパークであったが、地下深く8.5mまで残されていた既存躯体(スタジオとして使われていた)が残っていた。同じく道路の高低差も3m以上あり、その空きを使わない手はないということであった。地下に潜り込むような立体居住空間となっている。募集をしたところ人気が高かったのはこの地下1階、地下2階のメゾネットであった。あっという間に入居者が決まってしまった。都心において、静寂でかつダイナミックな空間を味わうことは希少なのであろう。集合住宅における地下室の効用である。
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