アーキプラス

2017.10.31

69.シンガポール集合住宅事情

コラムcolumn
 9月の初旬、事務所のメンバーが企画を練り、建築、不動産、施主などいずれも普段から交流のある老若男女14名での楽しい旅を行った。普段は団体で旅行することはめったにないが、2年前に中欧の旅行に行って、気の合ったメンバーと楽しく旅をしたことで味をしめた。今年も行こうということになり、都合のつく人を誘い募って、プチ海外旅行をした。前半2日間はシンガポール、後半2日間はペナンであった。ここ数年何回か訪れているシンガポールで新しい建築を見て回り、ペナンではのんびりリゾート気分を味わおうことにした。私自身、のんびりリゾートで過ごすのは得意なほうではないが、多様な参加者の満足度を考えペナン滞在を加えた。ペナンは19世紀に海峡貿易港としての中心がシンガポールに移る前に栄えた交易の街で、中心街ジョージタウンは歴史的都市群として世界遺産に登録されている街である。いろいろな文化が集結した食文化の都でもあり、そちらも期待大である。
 シンガポールは淡路島ほどの大きさだが、人口は550万人、そのうち40%近くは外国籍の人だそうだ。世界第4位の金融センターであり、港湾貨物取扱量世界第二位の貿易、商業、金融の街だが、近年、動物園、植物園、水族館、F1レースなど呼び物を集積させ観光資源開発を重ね、世界で4番目に外国人旅行者が多く訪れる都市でもある。
新しい建築もどんどん建てられている。そこで集合住宅を中心とした建築見学ツアーのため1日バスをチャーターした。ベテランのガイドの長さんというシンガポール人の案内だった。彼にとって、観光名所の案内ではなくコンドミニアムを中心とした建築の案内は初めてらしく不思議がっていた。バスの中でシンガポールの実情を教えてくれた。
 シンガポール国民の多くはHDBという公団住宅を購入して住む。年々高層化しているが、人種の坩堝(るつぼ)のなかで人種によるコミュニティに偏りがないように、居住者の割合が均質になるように定められている。1階はホーカー(オープンエアーの食堂)があり、安価で便利なコミュニティ施設となっている。
外国人はHDBを購入することができないため、主に賃貸で、一部投資用となっているコンドミニアムに住む。高級コンドミニアムは特に近年ザハ・ハディットなど著名な建築家を起用して、競い合っている。1人当たりのGDPは世界第4位で日本のそれをはるかにしのぐ、また貧富の差は日本よりかなりあるため、稼ぐ人は相当の家賃を払って住む、賃料は東京に比べても相当に高い。コンドミニアムの内部にはセキュリティの関係でなかなか入れない。外観からの見学が多かったが、お付き合いしている賃貸不動産会社にシンガポール営業所があったので、2つほど物件を内覧させてもらった。
 一つはダニエル・リベスキンド設計の高層集合住宅Reflections at Keppel Bayである。ゴルフ場、マリーナが隣接し、ジムやプールなどのコモンスペースが充実していた。近くに伊東豊雄設計の大型ショッピングセンタVivo Cityがあった。そういった付加価値をつけて、家賃の単価を高めているそうだ。もう一つは同じく伊東豊雄設計の4階建のコンドミニアムBelle Vue Residencesであった。密度を保ちながら、既存の樹木を残し、建物の外表面積を広くとった有機的なプランニングである。しかし、構成はLDKに寝室を配列したウェスタンスタイルの住居である。ファミリーの領域とは隔絶されたところに無窓で1坪ぐらいのメイドルームがあったのが印象的であった。二つとも建物外は水辺をふんだんに取り入れている、こちらの風水ではシンガポールの街同様に周りが海(水)で囲まれているところは「吉」でお金が集まるそうである。周りを見渡すとほとんどがHDBの公団住宅であったが、今度は、高密度でコンパクトにつくられたHDBの中身を見たいと思った。いろいろな生活の知恵の宝庫に違いない。
 営業所の担当の方(日本から赴任)に御礼と挨拶代わりに国産高級ウィスキーを持っていったら、大変喜ばれた。お酒は税金が高く、一杯の値段も東京の倍ぐらいする。宗教上や生活習慣の上でも暑い地域の人達はあまりお酒を飲まないらしい。
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