アーキプラス

2017.11.30

70.コモンスペース

コラムcolumn
写真:千駄ヶ谷の集合住宅[ZOOM神宮前] のホール
   シナ合板と黒皮鉄板でできた書棚に囲まれる。
 この11月、渋谷区千駄ヶ谷に13階建の集合住宅[ZOOM神宮前]が完成した。総数68戸には21タイプのバリエーションがあり、その中身がそのまま外部に現れ、多様性ある表情を呈した。また、高さの制限が厳しい中、天井高さに変化のある住戸を12戸全体に散りばめた。しかし、ここでの一番の特色は、共用玄関からエレベーターに通じるホールに書棚を並べ、共用のライブラリーとしたことである。以前、阿佐が谷の集合住宅[HUTCH] で試みた方式である。そこでは居住者が必ず立ち寄る郵便受けのある共用玄関に、洗濯機・乾燥機と書棚を設け、共用空間とした。同じオーナーが所有する近くにある集合住宅の入居者も利用できるようになっている。そこの場合、入居しているオーナーの友人が、本を集めるのが趣味で所蔵している本が提供された、元に戻すことを前提に部屋に持ち帰りもOKであった。ただ共用玄関を通り過ぎるのではなく、立ち寄り、漂う空間となった。共に住んでいる人達同士が顔を合わせ、お互いを認識できる場となる。[HUTCH]の場合は個人オーナーの小集合住宅の集合であったが、今回は13階建68戸という規模の大きいものである。また、分譲集合住宅ではあるが、主に賃貸集合住宅としてディベロッパーが運営する集合住宅である。ディベロッパーにこちらの提案を承諾していただいて本はこちらで調達することになった。雑誌のバックナンバーを中心に、こちらの所有の本の一部を寄贈した。とともに新規購入の予算をいただいて、どの本を購入するか、こちらでセレクションすることになった。いろいろなジャンルの本をグラフィカルなものを中心にスタッフと一緒に検討し、代官山蔦屋書店で購入した。また「ZOOM神宮前蔵書」という朱印をつくり、すべての本に押印した。
 以前の[HUTCH]の場合一つはグリッド上の棚で40㎝×40㎝の桝が36個あり、合計14.4mまた1m幅の棚が8個あり合計8m、総計22.4mの長さの本棚であった。本の量も相当量あったため、ぎっしりと並んだが、今回は、120㎝幅25cm奥行の黒皮鉄板でできた棚が80枚並べられ、合計96mの書棚となった。しかも、天井高さ4mの大空間である。いくら本を入れてもなかなか様にならない。新規購入した本は、読みやすいようにグラフィカルな洋書で表紙のデザインも目立つものが多かった。背表紙を見せていただけではもったいないと思い、主だった本は表紙を表に向けた。すると徐々に様になってきた。iPhoneで音を鳴らしてみる。ジャズをかけるとなかなか雰囲気が出てくる。スピーカーも購入し、深夜以外はジャズが流れるようにした。これからも事務所の本を整理しながら、中身を充実させてゆきたい。入居者自身からの提供があってもいいかもしれない。その運用方法は今後とも検討してゆくことになる。
 ヨーロッパで生まれたコレクティブハウスは集まって住むことの意義を強めた住まい方である。1戸1戸は住宅として独立した機能を持つが、家事労働を軽減するために食事・洗濯などの家事を共同で行う方式である。初期は大規模で委託サービス型であった。しかしサービス享受型は居住者自身が受動的になり、集まって住む本質的な意義が失われかねない。近年規模を小さくして、お互いの共有感を強め、能動的に居住者のかかわりを持つ形式になっている。そういう住まい方は、家族間の交流や個人とのかかわりが増え、新しいコミュニティが生まれる可能性がある。それを求める人達にはいい刺激となるかもしれない。私も一度は体験できたら面白いとは思う。しかし、そのかかわりは、すべての人が快適に暮らせる場となるとは限らない。いろいろな選択肢でコモンスペースを考えてゆきたい。
 渋谷区神山町で進めている集合住宅では、同じように天井高3.5mでさらに広い空間とし、飲み物の自販機も置き、テーブルやソファが並べられ、庭に続く、カフェテラスのような空間とする予定である。ほどよい触れ合いで楽しく住める仕組みができればいいと思う。
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