アーキプラス

2018.01.31

72.世界で最も住みやすい都市

コラムcolumn
写真:Hosier lanesのストリートアート
メルボルンはストリートアートが至る所にある。
21世紀になって勃興し、世界中から有名なアーティストが関与している。
この辺りは集中してあり、観光スポットとなっている。
 去年正月に行ったシドニーは、季節が日本の冬と真逆で、しかも時差がほとんどなく非常に心地よい旅であった。今年の正月も妻の提案でオーストラリアのメルボルンに行くことになった。メルボルンは「世界で最も住みやすい都市」に2011年より7年連続で選ばれているという。どのガイドブックにもそれが紹介されている。また、ガイドの人達もまずそれから語り始める。イギリスのある雑誌が、世界140の都市を対象に住みやすさを数値化したらしいが、何か胡散臭い気もする。数日過ごしてその状況を実感することにした。確かに広い国土に、資源が豊富である。かつて近くに金鉱が発掘された結果、ゴールド・ラッシュとなり、メルボルンに富が集まり、都市化したのが、大英帝国全盛期のヴィクトリア朝の時代である、当時、世界的に流行したパッサージュ(ガラス屋根のついたアーケードによる高級商店街)もつくられ、カフェ文化が浸透したそうである。「住みやすい」という評判もあって、人口がこの5年間に100万人も増えているそうだ。ということは1年間に20万人増えていることだ。オセアニア最大の都市はシドニーで人口は約500万人だが、それを追い越す勢いだという。去年行ったシドニーも魅力的ではあったのでどこが違うのだろう。ちなみにシドニーは他に幾つかオセアニアの都市がランキング・トップ10に入っている中でトップテンに入っていない。
 メルボルン中心部は、南北100mと東西200m間隔に大通りが碁盤の目状に設けられ、1.5km×3km位の部分にCBD(中央業務地区)となり、都市的な機能が集中している。人口増加もあって、新築の超高層ビルが次々と建てられていた。しかし、ニューヨークのマンハッタンから比べるとかなりコンパクトである。その中をトラムが各通りごとにいろいろな経路でつながっている。特に驚いたのは市の交通局の不正問題が原因らしいが、そのCBDの中はフリー・トラムゾーンとなり2015年から、無料になっている。トラムは、通りごとに複数路線あるため、2,3分もするとすぐに来る。碁盤の目状だから、1回乗り換えるとどこにでもすぐに到着する。そのCBDのまわりを公園や劇場や、美術館などの文化施設やスポーツ施設が取り囲んでいる。歴史はそれほどではないが、それが故、計画的につくられた都市であることが分かる。さらに奥は住宅地へと拡がり、メトロや電車でつながっている。また、オペラや観劇やコンサートの開催数は人口比で言うと世界でトップクラスだそうだ。いままで数多くの都市を見てきたが、たしかに中心部がこんなにコンパクトにまとまりながらも緑が多く、古い建物と新しい建物が共存していると市は珍しいと思った。気候も温暖である。冬は雪が降るほど寒くはならなく、夏も、シドニー同様、オーストラリア南部にあり、熱帯とは大陸を経てつながるため、熱帯低気圧による、洪水、風害はなく地震もないため、自然災害は少ない。ただ、滞在中は15℃~20℃で過ごしやすかったが、急に41℃となったりもした。全豪オープンのセンターコートの暑さも話題になったが、湿度が低く、夜は気温も20℃以下に下がるので、日本での41℃とは全く異なり、過ごしやすかった。
 イギリスの他の雑誌では世界の住みやすい都市ランキングTOP25(2017年)では東京が1位で京都が12位、福岡が14位だそうだ。ちなみにそこでは、メルボルン5位、シドニー7位と高位にランクされている。夏に熱帯夜が続く東京が1位だなんてにわかに信じられないことだ。京都・福岡も好きな都市だが、どれが上位かということは比べられないと思う。
 オーストラリアといえばカンガルーが国獣だが、人口は2400万人に対して、カンガルーは3500万頭もいる。毎年相当数増えるので、300万頭から700万頭をライセンスのあるカンガルーシューターによって計画的に補殺している。陸上の大型野生哺乳類の捕獲として、世界最大規模である。クジラとは比べ物にならない。捕鯨反対派はこれをどう思うのか?オーストラリアは世界でも有数の牧畜の国家であるが、家畜を襲うディンゴ(オーストラリア大陸周辺の野生犬)を人間が抹殺し、カンガルーの天敵であるディンゴが絶滅状況に追い込まれカンガルーが増えたということ。また、農業用灌漑設備が整備され、干ばつに左右されず繁殖が可能になった。言い換えれば、人間が生態系を破壊したことが個体数増加の原因となっている。やはり文化や価値を同じ尺度で評価するのは難しいことだ。
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