アーキプラス

2018.03.31

74.バスクの魂

コラムcolumn
 先月3月9日から3月18日まで、仕事の合間を縫って、スペイン・ポルトガルの旅に行ってきた。スペインはバスク州の州都ビルバオに空路で入り、ワインで有名なリオハ州からエルサレム・ローマと並ぶ巡礼の地サンチャゴ・デ・コンポステラへ続く巡礼の道をたどる旅であった。レオンなどの古い集落を巡る旅で日大の居住空間デザインコースの非常勤講師の時にいろいろお世話になった建築家の中山繁信さんを中心とした15人の老若男女のグループ旅行に紛れ込んだ。ついでにいままで食わず嫌いであったアルヴァロ・シザの建築をポルトガル第二の都市ポルト付近で見てこようということになった。
 最初に着いたビルバオはスペイン北部屈指の港湾都市で鉄鋼造船などにより栄えたが、重工業の衰退で不況に陥っていた。アートによる都市再生打開策をとり、グッゲンハイム美術館を1997年に開館させ、様々な建築家を起用して再生を図っている。フランク・O・ゲーリー、ラファエル・モネオ、アルヴァロ・シザ、サンティアゴ・カラトラヴァ、磯崎新、ノーマン・フォースター、ロブ・クリエ、リカルド・レゴレッタ、シーザー・ペリ、フィリップ・スタルクなどリスアップした建築にはそれほど関心はなかったが、これほどかたまってあるのも珍しいので思わず嬉しくなって、すべてを見て回った。旧市街地の近くの街の中心部に集約していた。
 その少しはずれにサン・マメスというサッカースタジアムが建っていた。アスレティック・ビルバオという地元の人気チームのスタジアムである。世界有数の強豪が集まるリーガ・エスパニョーラ1部の実力のあるチームである。土曜日曜の滞在だったのでサッカーゲームがあったら、試合を見たいと思ったのだが、あいにく、当日はアウェイの試合であった。スタジアムはシンプルな外観で、中をのぞいてみたら、これからスタジアムの見学ツアーが始まるという。見る予定ではなかったが、小1時間ほどのツアーに参加した。
 アスレティック・ビルバオでは選手は「バスク人」に限定するというクラブ方針を守っており、契約するプロ選手はバスク州出身者か、フランス領バスクの出身者のみである。同じくバスク州のサン・セバスチャンにあるレアル・ソシエダも「バスク人」に限定する方針を取っていたが、1989年以後はその哲学を変えたが、両者の対戦はDerbi vasco(デルビ・バスコ)と呼ばれ、相手チームのファンと肩を組んで応援するなど、地域内の友好的なダービーとして知られている。それに比してリーガ・エスパニョーラの強豪レアル・マドリッドやFCバルセロナはリオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドといった世界で超一流の選手を海外から集めて世界クラブワールドカップでも優勝している。現代のサッカービジネスのモデルの代表的な流れだ。それとは大いに異なった方針である。世界的にも珍しいあり方だ。「バスク人」の誇りを大切にしている。少々閉鎖的だが、そういうチームもあっていいと思う。クラブ・カラーはバスクの旗の色から赤と白である。スタジアム至る所に徹底して使われていた。
 ツアーは、内部のミュージアムから始まり、ピッチ(サッカーフィールド)、ロッカールーム、トレーニングルーム、ミーティングルーム、プレスルーム、ベンチ、特別席など普段見ることができない部分を幸運なことに見ることができた。2013年完成で新しく、デザインも非常に良かった。53,000人収容だが、人口35万人の都市にしては立派である。スペイン国内やヨーロッパからもリーガ・エスパニョーラを見にやってくるということか?以前、シアトル・マリナーズのセーフコ・フィールドでもツアーに参加し、同じような体験をしたが、スポーツの文化が根深いところでは、施設内部が充実しており、単に観戦するという機能だけではなく、内部でのファンの交流・情報発信ないろいろと工夫されている。しかし、それにしてもあのレアル・マドリッドやFCバルセロナと堂々とわたりあうアスレティック・ビルバオは立派なバスク魂のチームである。
Copyright(c) 谷内田章夫 無断転載不可