アーキプラス

2018.09.30

80.屋上のすゝめ

コラムcolumn
写真1 ニューヨークのルーフトップ・バー
   ラウンジ「Press Lounge」
写真2 高田馬場のルーフトップ・バー
   「SOUNDS terrace」
 この夏、事務所のある高田馬場に素敵なルーフトップ・バー「SOUNDS terrace」があると聞き、早速行ってみた。新しくできたマンションは別として古い建物が多く、比較的高い建物の少ない高田馬場では想像ができなかったが、3年前から夏限定で開いているらしい。新宿の高層ビルの夜景を一望できる場所にBBQのテーブル席。早稲田通りを見渡せるスタンディングのバーの組み合わせである。意外な企画で見晴らしは抜群だった。馬場でお酒を飲む空間としては最高であると感心した。
 子供の頃、社宅の3階建の建物の屋上は絶好の遊び場でもあった。今のように管理が厳しいわけではないので誰でも屋上に行けた。地上の遊び場とは異なった開放感が味わえた。夏の夜は遠くに見える和泉多摩川の花火を見たり、正月には風が強いので凧揚げをしたりした。妻壁に盛られた補修工事の砂の山に屋上から飛び降りたりして遊んだりもした。(良くそんな事をしたものだ。)
 1995年に完成した上高田の集合住宅[SQUARES]は4棟が中庭を囲む形式の4階建の集合住宅だが、2階建の北側部分を屋上庭園にした。1階と2階の中間のレベルにあり、この集合住宅の広場となる中庭より、1.5上がったレベルでメゾネット住居の3階のレベルからはフラットで行ける位置である。当時屋上緑化の義務等はなかったが、以前から自然を取り入れた共用空間をつくりたかったため、初めて試みた。スタッフや関係者が入居したので、季節の良い頃、バーベキューパーティなどして大いに楽しんだ。それもあって1998年に完成した海岸の集合住宅Ⅱ[CUBES]では31mの屋上に芝生広場をつくり、東京湾花火大会などを楽しめる場をつくった。目の前が東京湾の海であり、偶然にも写真家が4人入居していたこともあり、開放的な空間で交流を深めていたようだ。
 2005年に私の事務所が入った西早稲田の集合住宅[SCALE]では、最上階に入居する私の事務所をスキップフロアで3,4階から半階ずつ上がり、屋上に出られるようにした。日常的に出やすい屋上空間をつくり、事務所空間につなげた。オープニングパーティの時、大勢の方がこられて、事務所内外で大いに盛り上がった。夜半過ぎ、お巡りさんがやってきた。少し遠慮勝ちに「苦情がきています。」と言われた。「どちらからですか?」と聞いた。「それはお伝えできません。」時計を見たら、12時を回っている。周りを見回すと北側にマンションがある。「しまった、近隣に申し訳ないことをしてしまった。」瞬間酔いがさめた。以降、時間と人数、音には気をつけて行っている。 
 その後の2006年、いろいろな設計事務所の仲間が集まってバカンスでタイに出かけ、バンコックではザ・スコータイ・バンコックというホテルに泊まった。隣に人気のスポットがあるといわれて、隣のバンヤンツリー・ホテルの最上階、61階にあるレストラン&バー「Vertigo and Moon Bar」に行った。バンコクに数あるルーフトップ・バーの中でも元祖といわれているそうだ。夕暮れ時の絶好時であった。船ように造られていて、まるでバンコックの夜景の中に浮かんでいるようであった。ただ、突風が吹いたら、数多くの備品はどうなるのかを考えると足がすくむ思いであった。
 また4年前の2014年にニューヨークに行った時、評判の高いプレスラウンジ「Press Lounge」に寄ってみた。高さはそれほどではないが、まわりはニューヨークの摩天楼である。屋内のレストランに併設されており、青く輝くプールを囲んだ屋外のバーラウンジは、どの場所にいるよりここでニューヨークにいることを実感できた。
そのようなわけで都心型集合住宅の最上階に付加価値をつけるため、屋上にのぼることができるペントハウスを設け、戸別に屋上を楽しめる住居をつくるようになった。しかし、これからは[CUBES]のように建物の使用者に開放できるコモンスペースを提供したいと思っている。音や管理上の問題があり、なかなか実現できないが。都市のヒートランド現象化への対策としても緑化して、適切な管理や使用条件を整え、建物の使用者すべてに開放し、都市の自然を楽しめる空間にならないだろうかと考えている。
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