アーキプラス

2018.10.31

81.入院生活から得るもの

コラムcolumn
 何かの記事で坪田譲治のことが書いてあった。「ツボタ?どこかで聞いた名前だなあ」と思った。19歳の時、北海道一周一人旅、当時流行っていたリュック担いで周る「カニ族」で出会った人に坪田さんという人がいた。たしか知床半島のたもとの羅臼から尾岱沼などを経て、標茶という駅まで一緒だった。48年前のことである。私は大学に入りたて、彼は大学4年生で大学新聞の編集長であった。そして翌年に新聞社の就職が決まっていた。物静かで知性的で優しく、なにより物知りであった。私は哲学者ようであり、なにか達観した彼に興味を持ち、彼を頼ってコバンザメのように2,3日行動を共にした。東京に戻った後、彼の下宿にお邪魔し、ジャズ談義をしたのも憶えている。
 懐かしいと思った。名前は当時日本社会党の委員長であった成田知巳氏と同じ読みだといっていた。そうだ坪田知己さんだ。彼は何をしているだろうか?早速ネットで調べてみた。坪田知己さんはすぐに見つかった。年齢や経歴からその人に間違いないと思った。大手新聞の記者で菊池寛賞を受賞し、その新聞の電子版を立ち上げ、その後大学教授も兼任しながら活躍されたようで、現在はいろいろなところで文章術を教えておられるようだ。このコラムを書くのに参考になるかもしれないと思い、著書の「21世紀の共感文章術」という本をアマゾンで注文した。
 カテーテル・アブレーションという手術を行うことになった。不整脈の根本を治すため、静脈からカテーテルを入れて、心臓内部の不整脈の原因となっている部分を低温処理するものである。木曜日入院で、金曜日手術、本来なら、4日目で退院なのだが、4日目は日曜日で休日なので、1日長く月曜退院の、4泊5日となった。短期間だが、入院生活の体験であり、それをなにか楽しむことはできないかとポジティブ考えようとした。そこで、その手術を体験した何人かの人から話を聞いた。「大丈夫ですよ。気が付いたら終わっていたという感じです。」と。とはいっても心臓の手術であるので一歩間違えると大変なことになるという不安があった。だんだん気が重くなっていくが、時間は過ぎて行く。終わって気が付いたらベッドの中にいるという状態に早くなれと祈った。
 手術は予定通り無事終わった。妻や兄や事務所にそのことをベッドの中からメールした。翌日、今や仕事の片腕であるK君がお見舞いがてら、本や雑誌を持ってきてくれた。その中に頼んでいた「21世紀の共感文章術」があった。本を読み始める。さすがに編集のプロ中のプロの方の本であるので、手際良くわかりやすく書いてあり、速くあっという間に読めた。そこには文章つくりの彼の掟が明示されている。こちらが心がけているものも多いのだが、根本的に私が間違っていたものもあった。結論を早く、明快に示すことが重要だと書いてある。もし文章の添削で坪田さんの手に掛かったら、多分、このコラムも真っ赤になってしまうことだろうと思った。連絡を取ってみたいが、いきなりはなんとなくはばかってしまう。私のことなど憶えていないかもしれない。多分憶えていないだろう。そんな気持ちになった。
 いま自分の設計してきた集合住宅について自費出版としてまとめている。構想を練り、編集者Iさんにも相談して、作業を行っているが、なるべく自分のメッセージを分かりやすく伝えることが重要だと思う。坪田さんの文章作成の掟を参考にしよう。本ができたら、彼に連絡をし、会ってみたい。それができるレベルの文章ができたらいいのだが・・・。
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