アーキプラス

2019.01.31

82.王が頭の正月

コラムcolumn
写真:王が頭ホテルの露天風呂から八ヶ岳連峰からの日の出を見る。
   右手に富士山。
 昨年一昨年と2年連続で正月にオーストラリアに行っていた。時差が少なく、フライトも7時間ぐらいで無理をせず行けて、季節が逆転して楽しかったからだが、今年の正月は一転おとなしく長野県美ヶ原高原にある王が頭というところで過ごした。美ヶ原高原は長野の中央部にあり、北アルプス、八ヶ岳に挟まれる2000mの大地にある。その最頂部に位置する王が頭ホテルに3泊した。海抜2034mの高原の頂部にあるため、雲海を見渡す事のできるホテルとして有名で、初秋の頃は雲上の見晴らしが絶景だといわれる。ここは、日本の中央部にある主な高山のすべてを見ることができる。特に冬はクリアに見渡せるシーズンだ。長野県のシンボルである浅間山から、すぐそばに八ヶ岳連峰、その南側にはるかに遠く、富士山の美しいコニーデが見える。さらに南側に、日本第2位の高峰の北岳のある南アルプス(赤石山脈)が続く。さらに西側に目をやると、木曽駒ケ岳のある中央アルプス、そして御嶽山、乗鞍岳が見え、穂高連峰、槍ヶ岳のある北アルプスへと続く。遠くに立山連峰も見える。さらに白馬岳、妙高山、黒姫山、白根山などが顔を出し、日本の名峰の多くを一度に見ることができる最高のポイントなのである。
 新宿から特急あずさに乗り3時間で松本到着。マイカーは入れないので、ホテルの送迎バスで山道を揺られながら1時間10分ぐらいで到着した。創業は昭和28年(1953年)のホテルだが、当初は山小屋であった。TVなどの電波塔が建てられるようになり、電力を供給するために道路が整備され、地中埋設のインフラが整った。そのため電気と揚水による水が確保されるようになり、増改築を繰り返して、ホテルとしての営業を続けている。国定公園であるため新規の建築は不可能となっている。したがって宿泊施設はこの周辺ではここのみとなっている。
 この美ヶ原高原は標高2000mの草原である。その草原を利用し、平安の昔から馬の放牧が行なわれていた。現在では400haの広大な牧場になっており、5月下旬?10月中旬にホルスタインを主体に牛約400頭、馬十数頭が放牧されている。美ヶ原牧場は110年以上の歴史ある牧場だ。その季節は、高原の清々しい自然の中で草を食んでいる牛たちの姿を見ることができ、心和むそうだ。種付け用の雄牛以外は、すべて雌牛で一番多いのがホルスタイン種で牧場から帰った牛は子牛を産み、牛乳を生産する重要な役割を担っている。牧柵の外から牛馬を眺めながら、パノラミックな高山の峰々を遠望できる絶好のハイキングコースとなる。牛達は冬の間は各畜産農家に戻る。スノーシューを履いて高原をガイドの方に案内してもらった。
 松本在住のネイチャー・ガイドの方にスノーシューはき方、脱ぎ方、歩き方から教えてもらう。もともと、この地帯は、森林限界に生息するダケカンバが密生していたが、放牧地の利用で伐採され、今では牧草と共に高原に真っ赤な絨毯を敷き詰めたようなレンゲツツジが6月下旬~7月上旬に咲くそうだ。高原を代表する花となっている。近年ではササに侵食されつつあるらしい。雪に動物の足跡が点在する。これは鹿、あれは兎その天敵の狐などと教えてもらう。狼などの天敵の減少で近年は鹿が増えているそうだ。霧が低温で氷結し、木々に漂着した霧氷もできたてのものを見た。写真に撮る。アイフォンのシャッターを押すための右手が凍てつき、刺すような痛さになる。ホテルでは、スライドレクチャー、星空観察会もあり、屋久島や久住高原で楽しんだ自然観察を十二分に堪能できる。今回は3連泊したため、朝日、夕日共曇りから晴れ間、晴れ間、雲ひとつない快晴とありとあらゆる天気のなかで自然を楽しむことができた。
 部屋の世話をしてくれた女性は、厳冬期をここで働き、春~夏~秋は立山連峰の山小屋で働いているそうだ。山が好きで時おり周辺の山登りもする。自然が生んだ絶景の中で暮らす。素晴らしい生活だなと思った。
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