アーキプラス

2015.02.28

38.立体居住空間

コラムcolumn
※4ヶ所の強調青文字をクリックするとバックナンバーコラムにリンクします。
 賃貸集合住宅の設計が多いので、この季節(年度末)は竣工が重なる。この1ヶ月で新たに3つの集合住宅が竣工した。3つとも一部にまたは全体に立体居住空間が組み込まれている。立体居住空間とは住まいを平面的な使用だけではなく、吹抜け、ロフト、段差などを取り入れ、立体的に空間を利用したもので断面の計画である。私が勝手に名付けたものだが、計画全体が複雑になるため、取り入れられている例はあまり多くはない。しかし、私の場合、昨年完成した日本橋久松町西大泉、麻布十番、鴨 川、大岡山、南品川の集合住宅でもいずれもそれらが取り入れられている。 
 20年前に個人事務所として独立したが、初期の仕事である上高田の集合住宅[SQUARES]や海岸の集合住宅[ALTO B]から始め、少しずつ、仕組みや規模を変えながら、継続して改変を加え、積み重ねてきた。[ALTO B](ヤチダヨリ12. 写真家Ⅱ参照)では交互に2層分の空間を組み合わせたフラット住居をつくった。5メートル超で30畳ほど大空間は、今までにない賃貸物件であり、メデイアにも取り上げられ反響が広がった。このようなものをもっとつくりたいと思ったが、100㎡という広さは、家賃総額が大きくなり、一般的なニーズに応えることはできない。また、成立する条件のそろった土地は極めて少ない。そこでより一般的な条件の中で一般的なマーケットに対応したものを展開してゆくことになる。
 まず40㎡前後の1LDKの吹抜けのあるメゾネットをつくり、吹き抜けには大きな開口部をつけた。コンパクトな空間であるが、開放感とともに相当に空間の迫力もできた。躯体や開口部のコストアップは仕上げの簡素化でまかなった。半層ずつ折り返して上る階段の踊り場に居室をリンクさせたスキップフロアも考えた。中心に1.5層のリビングルームをとり、奥に寝室と水回り、手前にダイニングキッチンを設けたメゾネットなども定番の一つとなった。
 2000年に法律が変わり、新しい屋根裏収納や床下収納の基準が制定された。その頃UR都市機構から河田町で建てる超高層集合住宅の高階高の1階部分の検討の依頼を受けた。新しい基準の中で高階高を生かした住まいのインフィルの提案を求められた。そこで3つの住居の提案をした。ここでの提案は60㎡~90㎡の広いものであった。4mほどの天井高によって充分な開放感が得られ、ロフト収納による機能は充分に強化された。これを機会にロフトや床下収納を取り入れた1.5層の住居をつくるようになった。これもコンパクトなものに対応させれば、より一般的に広まる効果があると思い、まず30㎡にチャレンジした。2005年に完成した[tuft]という板橋にある集合住宅である。十分な効果が確かめられた。以降、40㎡に広げたり、狭い24㎡のタイプを納めたりした。24㎡を下回る住居でも機能、空間ともに相当に上回る特性を持つことが確かめられた。そこで2階分の高さで交互に1.5層を取り入れたものを考えた。高さ制限が厳しいところでも、上下の寸法を調整し、直床の工法を取り入れ効率的に取り入れれば、立体居住空間が可能となった。この手法も定番となった。屋根裏収納や床下収納の基準は東京の場合区毎に規定が違う。建築審査機関の対応をもとにいろいろな戦略たてているが、規制緩和に向かった方向を規制するのはいかがなものかと思う。その辺りは新しい空間の可能性を目指してきたことに対しての障壁となっている。
 この20年近くの間に棟単位でいうと約90棟の集合住宅を設計してきた。10m以下から50mまで高さは様々だが、ほとんどの建築に立体居住空間を取り入れている。以前から木造で幾つか集合住宅をつくってきたが、最近ではコンクリート関係の職人不足からコスト高になっているので、 再び木造に注目している。新しいつくり方にチャレンジしている。これを続けるとともに平面の計画も見直したいと思っている。
Copyright(c) 谷内田章夫 無断転載不可